針路を南へとれ  

 日田を過ぎて、小国(おぐに)に入った頃からポツリポツリと降ってきた。うーんこれはいかんなあ、と思いつつもそのまま走り続ける。雨ガッパというのは、本来的にはあまり気分のいいものではないのだ。着ないで走れるものなら着ないほうが望ましい。
 しかし、走れば走るほど本格的雨模様となり上着がほとんどビショビショになった頃ようやくバイクを止めてカッパを着る。よく考えてみたらなんとも間抜けな話だ。

 それはまあともかくとして、普通のカッパはバイクで走っていると前のチャックから雨がジワリジワリとしみてくる。そこで、用意周到な僕は、幅広の胸当を付けるという本格的防水工事をしていたのだ。
 フフフン、雨などは全然こわくないのだ。と、胸を張って走っていたらなんだか知らないが、腕が冷たくなってくる。なんと、袖の縫目から水がしみてくるのだ。
 ナンダナンダと思ったが、西友デパート4980円也のカッパでは仕方がないのであろう。うーんやっぱり安物はイカンイカン。

 僕は、大雨の時にカッパを着て歩き回るというのは意外に好きなのだが、それは身体が全然濡れないからいいのであって、水が漏るカッパというのは言語道断なのである。
 それも上半身なら、まっいいかと許せないでもないけど、下半身ーしかも股倉がジワーッと濡れてきた。これはもうまったくなんといっても冗談じゃあないのである。

 全身ズブ濡れというのは、これはかえって爽快なものだが、股間だけジュクジュクというのは大変に不快指数100である。おそらくは、遠い昔のオネショの記憶につながるからでもあろうが、理屈はどうあれ不快なものは断じて不快なのだと、僕などは声を大にして言いたい。

 「南に行けば梅雨は明けている!」という僕の確信は、右方向にやや傾いた。しかし、なんとかなるだろうという超普遍的楽観主義がそれを補っていた。そして、走れば走るほど雨足は強まり、ついには前もよく見えないほどの豪雨になってしまった。
 その上、道に迷ってなんともしれない狭い山道に入り込んでしまい、僕の梅雨明け確信はさらに大きく傾いた。

 しかし、なんとでもせいという超論理的開き直り俺もうどうでもいいもんね主義が、かろうじてそれを支えていた。
 そして、ようやく阿蘇に入ったら雨は一応上がった。雲は広がってはいるものの、遠くには一部青空も見える。フムフムと僕の確信はかなり回復した。

 だが南阿蘇を抜ける峠道では、再び激しい雨兼霧となり、カッパの下は背中の一部を除きほぼ完全にぐしょ濡れとなった。
 しかし、しかし峠を越えればそこは梅雨明けだった。暑い夏の日差しが冷えきった身体を暖めてくれる。

「我今バイウ前線を突破セリ」

 思わず腹の底からワッハッハァと笑ってしまったのである。よおしよし、こうでなくっちゃあいけない。あとは、目的地に一直線だ。